資産形成の記事は山ほどありますが、「どう使うか」を書いたものは驚くほど少ないです。私も計算を始めるまで、貯めることばかり考えていました。
実際に出口まで試算して分かったのは、同じ金額を持っていても、取り崩す順番だけで手取りが変わるということです。口座ごとに税金のかかり方がまったく違うからです。
- NISAは最後に残す。非課税の枠を、長く運用させるほど効く
- 値動きが大きい資産は先に。取り崩し初期の下落がいちばん効くため
- iDeCoは60歳まで引き出せない。順番以前に「使えない期間」がある
- 退職一時金とiDeCoの受取時期が近いと、退職所得控除を取り合う
- 取り崩しは売る金額=使える金額ではない。課税口座は税引き後で考える
まず、口座ごとに税金が違う
| 口座 | 取り崩すときの課税 | 引き出せる時期 |
|---|---|---|
| NISA | 非課税 | いつでも |
| 課税口座(特定・一般) | 譲渡益に20.315% | いつでも |
| 普通預金 | なし | いつでも |
| 持株会 | 売却時に譲渡益課税 | 退会・引き出しの手続きが必要 |
| 暗号資産 | 原則雑所得として総合課税 | いつでも |
| iDeCo | 一時金=退職所得控除/年金=公的年金等控除 | 原則60歳以降 |
| 退職一時金 | 退職所得控除 | 退職時 |
この表を見ると、NISAだけが明らかに有利だと分かります。だからいちばん最後まで残すのが基本になります。非課税で運用できる期間が長いほど、その恩恵が大きくなるからです。
私が決めた7段階の順番
| 順 | 取り崩す資産 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 暗号資産 | 値動きがいちばん大きい。持ち続けるリスクが高く、課税も重い |
| 2 | 普通預金 | 増えないので、早く使ったほうが機会損失が小さい |
| 3 | 持株会 | 勤務先1社に集中している。辞めた以上、持ち続ける理由が薄い |
| 4 | 退職一時金(受取後の口座) | すでに受け取り済み。運用に回していない分から使う |
| 5 | NISA超過分の課税口座 | 課税されるので、非課税のNISAより先に |
| 6 | 企業型DC(受取後の口座) | 60歳到達時に一括受取した分 |
| 7 | 積立NISA(最後) | 非課税。いちばん長く運用させたい |
なぜ暗号資産を1番手にしたのか
ここは意見が分かれるところだと思います。「値上がりを期待して持っているなら最後まで持つべきでは」と考える人もいるはずです。
私が先に外す理由は2つあります。1つは、値動きが大きい資産を取り崩しに使うのが構造的に不利だから。生活費として毎年決まった額を抜くとき、価格が半分になっていたら2倍の数量を売ることになります。これが最初の数年で起きると、回復するはずだった元本まで削られます。
もう1つは税金です。暗号資産の利益は原則として雑所得で、総合課税になります。他の所得と合算されるため、所得が高い年に大きく利確すると税率が跳ね上がります。逆に言えば、収入がなくなったリタイア直後こそ、いちばん低い税率で処理できるタイミングです。
暗号資産の税制は、株式や投資信託とは扱いが大きく違います。損失を翌年に繰り越すこともできません。金額が大きくなる場合は、必ず税務署か税理士に確認してください。
いちばん見落とされる論点:退職所得控除の取り合い
これは自分で計算するまで知りませんでした。会社の退職一時金とiDeCo(企業型DC)の一時金は、どちらも「退職所得控除」を使います。
問題は、受け取る時期が近いと、この控除枠を共有してしまうことです。片方で控除を使い切っていると、もう片方に十分な控除が残りません。結果として、入口(掛金の所得控除)で節税した分を、出口で戻すことになりかねません。
私の場合は退職一時金を35歳の退職時に、企業型DCを60歳到達時に一括で受け取る前提にしています。25年空くので、この論点は回避できる想定です。
ただしこのルールは改正の議論が続いている領域です。受け取り時期を決めるときは、必ずその時点の最新の取り扱いを確認してください。
「売る金額」と「使える金額」は違う
計算で必ず入れるべき処理です。課税口座から300万円を売っても、手元に300万円残るわけではありません。
売却額のうち、買ったときの値段を超えた部分(譲渡益)に20.315%がかかります。私はこれを簿価按分——売却額に占める利益の割合を出して、そこに課税する——という方法で計算しています。
この処理を入れないと、必要額が1〜2割ほど楽観的に出ます。長期の試算では効いてきます。
順番を決めるときの原則
- 非課税の器は最後に残す(NISA)
- 値動きが大きいものは先に外す(取り崩し初期の下落が最も痛いため)
- 1社に集中している資産は早めに分散させる(持株会)
- 税率が低い年に、重い課税の資産を処理する(収入がない年こそチャンス)
- 受け取り時期が制度で縛られるものは、そこから逆算する(iDeCo・年金)
この5つで考えれば、資産構成が違っても自分なりの順番を作れるはずです。大事なのは順番そのものより、決めておくことです。取り崩しが始まってから毎回判断するのは現実的ではありません。
まとめ
貯めるときは「どれだけ増やすか」ですが、使うときは「どれだけ手元に残すか」に変わります。同じ資産でも、順番を決めておくだけで結果が変わります。
必要額そのものの計算方法は、こちらにまとめました。
必要額そのものの計算方法は、近日公開予定です。FIRE実践記の一覧もあわせてどうぞ。
参照した情報(2026年9月時点)
・国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき」/「No.1463 株式等を譲渡したときの課税」/同「暗号資産に関する税務上の取扱い」
・厚生労働省「確定拠出年金制度」
税制は改正されます。実際の受け取り方や時期を決める際は、必ず最新の取り扱いを確認し、金額が大きい場合は税務署または税理士にご相談ください。本記事は情報提供を目的としたもので、税務相談ではありません。

